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10-18 航との別れ 2

last update Last Updated: 2025-04-28 08:37:23

11時半——

 朱莉と航は那覇空港へと戻って来ていた。朱莉は先ほどの『瀬長島ウミカジテラス』が余程気に入ったのか、航に感想を述べている。

「本当にびっくりしちゃったよ。まさかあんな素敵なリゾート感たっぷりの場所があるなんて。まるで何処かの外国みたいに感じちゃった」

「そうか、そんなに朱莉はあの場所が気に入ったのか。それならまた行ってみたらいいじゃないか」

航の言葉で、途端に朱莉の顔が曇った。

「うん……そうなんだけど……。でも、私1人では楽しくないよ。航君と一緒だったからあんなにも素敵な場所に見えたんだよ」

「朱莉……」

朱莉の言葉に、もう航は感情をこれ以上押さえておくことが出来なかった。

(もう駄目だ……!)

気付けば、航は朱莉の腕を掴み、自分の方へ引き寄せると強く朱莉を抱きしめていた。

(朱莉……! 俺は……お前が好きだ……離れたくない!)

航は朱莉の髪に自分の顔を埋め、より一層朱莉を強く抱きしめた。

「わ、航君!?」

位置方、驚いたのは朱莉の方だった。航に腕を掴まれたと思った途端、気付けば航に抱きしめられていたからだ。慌てて離れようとした瞬間、航の身体が震えていることに気が付いた。

(航君……もしかして泣いてるの……?)

——その時。

「何をしているんですか?」

背後で冷たい声が聞こえた。航は慌てて朱莉を引き剥がすと振り向いた。

するとそこに立っていたのは——

「京極……」

京極は冷たい視線で航を見ている。

「安西君。君は今朱莉さんに何をしていたんだい?」

「……」

(まさか……こいつが空港に来ていたなんて……!)

航はぐっと拳を握った。その時、朱莉が声を上げた。

「わ、別れを! 別れを……2人で惜しんでいたんです……。そうだよね、航君?」

朱莉は航を振り返った。

「あ、ああ……。そうだ」

「別れ……? でも僕の目には航君が一方的に朱莉さんを抱きしめているようにも見えましたけど?」

「そ、それは……」

思わず言葉が詰まる航に朱莉が素早く反応する。

「そんなことありません!」

「朱莉……?」

「朱莉さん……」

朱莉の様子を2人の男が驚いた様に見た。丁度その時、航の乗る飛行機の搭乗案内のアナウンスが流れた。

「あ……」

航はそのアナウンスを聞いて、悲し気に言った。

「朱莉。俺、もう行かないと……」

「う、うん……」

すると京極が笑みを浮かべる。

「大丈夫ですよ、
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  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   <スピンオフ> 第4章 大企業の御曹司 3

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